金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト

異分野融合型

薬物動態を支配する個体差要因可視化とその制御による次世代型個別化医療

プロジェクト代表者 
絹谷 清剛
所属組織・役職等 
医薬保健研究域医学系・教授
研究分野 
Medicine, Research & Experimental(医学、研究、実験) Multidisciplinary Sciences(複合科学)
医用画像・バイオイメージング、薬物送達システム、薬物輸送担体、放射線治療学、生体情報・計測
Medical image・Bio-imaging, Drug delivery system, Transporter, Radiotherapeutics, Bio‐information・Biometric

長い間、病気の治療には、同じ病名であればすべての人に同じ薬を同じ量投与するというように、疾患名に依拠した画一的な医療が行われてきました。しかし、そのような治療では、薬がよく効く人もいる一方で、十分な効果が出ないばかりか副作用が出てしまう人も少なからずいます。そこで、個々の患者一人ひとりに最適な治療を提供するために、遺伝子診断を基にした個別化医療が模索されてきました。しかしながら、この遺伝子情報に基づいた個別化医療も、患者に投与された薬物の体内での分布や挙動を把握しないまま行われているため、不十分な効果や副作用が生じる可能性があり完全なものとは言えません。そこで、薬物の体内での動きを目で見て確認しながら治療し、適正化していく科学的根拠に基づく治療方法(EBM)を個々の患者に用いる必要があります。それが、本プロジェクトが実現を目指している「“個々の患者における証拠”に基づく医療(personalized evidence based medicine: 個別化EBM)」です。

“個々の患者における証拠”に基づく医療(個別化EBM)の必要性

がん治療を一例に、個別化医療から「“個々の患者における証拠”に基づく医療(personalized evidence based medicine: 以下個別化EBM)」への転換の必要性を説明してみましょう。がんの個別化医療では、個々の患者の正常な組織の遺伝子とその患者から発生したがん組織の遺伝子を検索して、がん組織に発現する遺伝子を標的とする薬を選択することで治療効果を上げ、加えて副作用が出る可能性があるかどうかを判断してそれを回避する手法が取られます。しかし、がん組織は通常不均一な状態なので、その一部分だけを調べても不十分です。さらに、投与した薬のうち、効果を発揮するのに必要な量ががん組織に達しているかどうかもわからないままに治療を行っている点で不完全です。また、肝臓・心臓・腎臓の働きが弱っていると、投与した薬が体内で予想外の分布を示すため、副作用が通常より強く出てしまうということもあります。つまり、今行われている個別化医療は、まだまだ理想的とは言えない状況です。

それに対し、個別化EBMでは、投与された薬の体内の分布を体の外から時間を追って観察して、十分な薬ががんなどの病巣に集積しているか、望ましくない広がりになっていないかを患者ごとに治療前に検証して治療の方針を決めます。さらに、治療を開始した後も、それを確認することによって個別化医療の欠点は克服できると考えます。我々が実現しようとする個別化EBMは、個々の患者ではなく、個々の症例における科学的根拠に基づく医療であり、次代のコンセプトなのです。

複合領域の連携による次世代型個別化医療の形成

本プロジェクトを達成させるためには、薬の体内挙動を制御する技術、病巣に効果的に薬を届ける技術、患者ごとに薬物体内動態を可視化解析し、なおかつ、それを制御する技術などを開発する必要があります。そこで、遺伝子解析、薬剤合成、薬物動態、体外可視化装置、情報解析、臨床実施等の複合領域を横断的に研究・統括し、以下の4つの目標を達成することを計画しています。

  • 分子プロファイリングによる組織・病巣選択的因子探索、標的化分子の探索と標識化、SPECT/CT・PET/CTによる放射性標識体の合成・動態の評価
  • In vitroにおける細胞膜・細胞内・細胞間での動態可視化、SPECT/CT・PET/CTによるin vivoでの動態可視化
  • 現行放射性医薬品内用療法による治療実践と得られるイメージング情報の解析、新たに設定されるモデル実施への基盤形成
  • 薬物局所動態無侵襲3次元イメージング法開発、内視鏡による腫瘍組織の蛍光集積性評価

本プロジェクトのアイデアは、医学・薬学・保健学・工学の各々が独自に有する研究・医療・テクノロジー基盤を相互に融合させることによって、次世代型個別化医療基盤を形成しようというものです。これは、今後、新しい教育・学際研究分野、ならびに、診療技術の創出と国内医薬産業活性化へと繋がっていくに違いないと考えています。

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