金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト

異分野融合型

東アジアの大気・海洋における有害化学物質の影響評価と統合環境の創成

プロジェクト代表者 
長尾 誠也
所属組織・役職等 
環日本海域環境研究センター 教授
研究分野 
Ecology(生態学), Public Environ. & Occupational Health, Public, Environmental & Occupational Health(公衆衛生学、環境衛生学、労働衛生学) Environmental Sciences(環境科学)
多環芳香族炭化水素、放射性核種、物質動態、PM2.5、生態系
Polycyclic aromatic hydrocarbon, Radioactive nuclide, Material kinetics, PM2.5, Ecological system

日本海を取り囲む東アジア地域は,日本,中国,韓国,台湾等の国々を擁し,世界の人口の5分の1を超える約17億人が暮らす地域です。これまで30年以上に亘って高度成長を続けてきました。長期にわたる産業発展は,地域の人々に経済的な豊かさをもたらしましたが,社会環境の整備は未だその急激な成長に追いつくことができずにいます。化石燃料の大量消費やバイオマス燃焼による有害化学物質生成,農薬の大量使用に起因する大気・水環境の汚染などにより,地域全体が潜在的な脅威に晒されているのです。

我々の研究チームは,大気・海洋・陸域環境と人の生活環境,つまり,ひとを取り巻く環境全体を「統合環境」と名づけ,東アジア全域の統合環境研究を進めています。有害物質の挙動や,汚染の状況,ひとの健康への影響等を明らかにし,安全な統合環境を創成することを目指しているのです。

PM2.5等,環境汚染物質が移動する仕組みを解明する
東アジア地域は,強い偏西風の影響下にあり,有害物質は風によって国境を越えて運ばれます。また,長江などの河川から東シナ海,日本海への水の流れは,風と同様,有害物質を長距離輸送します。我々は,こうした輸送拡散の機構を明らかにすることを第一の目標としています。
本プロジェクトでは,黄砂やPM2.5,特に多環芳香族炭化水素類(PAHs)を対象として,輸送拡散と汚染による負荷の様態を明らかにする計画です。PAHsは,PM2.5の主要因,ベンゾ[a]ピレンに代表される有機汚染物質で,化石燃料の燃焼や,炭素を含む物質(木材,タバコ,脂肪,香など)の不完全燃焼によって生成され,近年では発がん性も指摘されています。本プロジェクトでは,石炭燃料施設や自動車がPAHsの主要排出源となっている環日本海域と,焼き畑等バイオマス燃焼由来のPAHsも多く含まれる東南アジア地域の双方を調査フィールドとして,排出源が異なるPAHsが,大気・海洋環境での輸送中に,どのような組成変化・毒性化を経るかに着目し,移行動態とその支配的要因を解明します。
具体的には,金沢大学の能登大気観測スーパーサイトと札幌,東京,北九州,中国の敦煌・北京,韓国のソウル・釜山,ロシアのウラジオストク他,計13カ所から成る大気観測モニタリングネットワークにおいて,継続的に気球観測・サンプリングを行い,黄砂やPAHsの輸送経路を三次元的に追跡します。また,連携大学・省庁の協力を得て,日本海で定期的な調査航海を実施します。ここでは,放射性核種を用いて,水塊流動特性や化学成分の動態研究を進める計画です。併せて,中国,韓国,ロシアの研究機関と協力して海洋観測網を構築し,河川により海洋へと運ばれたPAHsが海流に伴いどのように移動するか,その際の,粒子との吸着性や沈降性の変化やその要因等を明らかにします。
また,生態系への影響評価として,魚のウロコによるバイオアッセイ,魚類の脊椎彎曲率等,PAHsが蓄積される海洋生態系を比較評価するためのデータを蓄積していく予定です。さらに,人の健康への影響評価は,呼吸器疾病率等を用いて行う計画としています。

東アジアのみならず,全世界の,安全な統合環境創成に寄与する
本プロジェクトの特徴は,従来個別に進められてきた大気,海洋,陸域の研究を統合し,大気—海洋—陸域間の相互作用も考慮し,環境の総合評価を行う点にあります。有害物質の発生源同定から動態解析,シミュレーションによる汚染状況の将来予測,人や生態系への影響の定量的評価等の研究成果に基づき,環境再生につながる対策・施策を提案することが,現時点で想定している,最終的な目的です。これらの成果は,我が国,東アジア地域のみならず,同様の課題を抱える新興国が多い東南アジア,さらには世界の他の地域の安全な統合環境創成にも大きな貢献を果たし得るものと考えています。

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