金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト

異分野融合型

幹細胞とがんの数理生物学

プロジェクト代表者 
佐藤 純
所属組織・役職等 
新学術創成研究機構 教授
研究分野 
Developmental Biology(発生生物学), Oncology(腫瘍学) Mathematics, Applied(数学、応用)

幹細胞は自分自身と同じ性質を持つ細胞を複製しつつ(自己複製),性質の異なる様々な細胞を生み出す能力(多分化能)を持っており,発生生物学および再生医療の両方の観点から注目されています。我々の研究グループは,生命科学と数理科学の手法を融合的に用い,幹細胞の自己複製や細胞分化のメカニズムの解明を目指します。

生命科学と数理科学の真の意味での融合研究は,世界的にみても非常に限られています。生命科学と数理科学の両分野に相互の影響を与えながら,新しい学術分野を形成していくことを目指しています。

生物の体の発生および再生医療に重要な幹細胞と,未だ克服困難ながん
脳の視覚中枢の発生過程では,ある領域から始まった神経幹細胞の分化が隣り合う領域に伝播していくこと(分化の波)によって,神経上皮細胞から神経幹細胞が規則正しく産み出されます。我々の研究グループは,この現象においてEGFとNotchという遺伝子のシグナルネットワークが中心的な役割を果たすことに着目し,数理解析により,両遺伝子の新たな関係性とその役割を明らかにすることができました。また、数理モデルによる予想を遺伝学的な実験により検証することにも成功しており、分化の波と数理解析は非常に相性がいいことがわかってきました。そこで,この数理モデル研究をさらに発展させることにより,幹細胞分化の普遍的なメカニズムの解明につなげることができるのではないかと考えました。
幹細胞は,生物の発生において体を形作る源であると同時に,病気や怪我などで損傷した組織を再生するための材料としても注目されています。神経幹細胞やES細胞のような幹細胞は,自己複製しながらも時間と共に性質を変化させ,次々と異なるタイプの細胞を生み出します。我々は,このような幹細胞の自己複製や分化のメカニズムを,数理科学と生命科学の手法を組み合わせて解明していこうと考えています。
また,がんにおいても,これまでに蓄積された膨大な情報をもとに数理科学の手法を用いることにより,正確ながんのシミュレーションが可能になると期待されます。例えば,抗がん剤の効果の予測,創薬の標的分子の探索,効果的な治療プロトコールの開発などへの応用が考えられます。

生命科学と数理科学の融合により幹細胞とがんのメカニズムを明らかにする
我々は,数理科学,すなわち数理モデリング・数値解析・数学解析を基盤とし,幹細胞の数理生物学と,がんの数理生物学を2本の柱として研究を進めます。また,次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析を担うゲノム情報学および数値シミュレーションのための画像・映像処理に用いる画像解析技術により,数理モデル研究に必要な定量データを取得し,本研究の推進を支えます。
幹細胞の数理生物学:神経上皮細胞から神経幹細胞への「分化の波」の数理モデルをさらに発展させ,神経幹細胞から産み出される神経細胞の多様性がどのようにして制御されているのか、精緻な分化メカニズムの解析を行います。我々は,時間的に発現変動する複数の転写因子の相互作用が神経幹細胞の経時変化を制御することを見出しており,これらの多因子の数理モデルを構築することで,神経幹細胞の自己複製と経時変化を統合的に理解するための理論の構築を目指します。
がんの数理生物学:慢性骨髄性白血病では,骨髄内のニッチをめぐった競合において,白血病細胞が正常造血細胞に打ち勝つことが白血病発症に大きく影響すること,またそれにはケモカインという炎症に関係する分子が関わることがわかっています。ケモカインと,白血病細胞,正常造血細胞,ニッチ細胞の相互作用に着目した数理モデルを構築し,がん発症の過程を明らかにします。また、この数理モデルを発展させ、抗がん剤の効果を予測する技術への応用を目指します。
このように,生命科学分野の中でも特に重要な幹細胞とがんに焦点を当て,「幹細胞とがんの数理生物学」研究を推進します。

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