金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

先端的日和見感染症研究プロジェクト

プロジェクト代表者 
岡本 成史
所属組織・役職等 
医薬保健研究域保健学系・教授
研究分野 
Infectious Diseases(感染症) Health Care Sciences & Services(ヘルスケア科学、サービス) Research & Experimental
日和見感染症、疫学、微生物、ライブラリー
Opportunistic infection, Epidemiology, Microorganism, Host response, Library

我が国は、現在、少子高齢化社会が急速に進行しています。高齢者医療費と社会保障費のさらなる増大や労働力人口の減少が、社会全体の活力やその存続に多大な影響を及ぼしかねない未曾有の事態が差し迫っています。このような超高齢化社会に向けて、医療費の抑制と、国民の健康的生活の保障と生活の質の向上を目的とした医療や保健・健康科学の必要性が高まっています。中でも、健康面で問題を抱えがちな高齢者や有病者や要介護者の適切な健康ケア対策は、急務の課題となっています。かれらにとって、最も大きな健康障害となりうるもののひとつに日和見感染症があります。本プロジェクトは、この日和見感染症を解明することで、高齢者、有病者、要介護者の健康的生活の保障及び生活の質の向上に寄与しようと考えています。

 

その全貌がほとんど明らかにされていない日和見感染症

日和見感染症とは、病気などで免疫の働きが低下しているときに、健康な人には病気を起こさないような、病原性の弱い微生物に感染し発症することです。日和見感染症を発症する原因の多くは、その生態と病原性がほとんど明らかにされていない常在細菌叢に存在する弱毒性微生物によるものです。健康障害を引き起こす要因として健康科学分野において重要な課題であるにもかかわらず、現状では感染症学的根拠に基づいた病因論、感染管理法、並びに、予防・治療法は確立されていません。高齢者、有病者、要介護者などの生活の質の向上のためには、日和見感染症の実態の詳細な把握のための臨床疫学調査を行い、日和見感染症についてのデータを収集し、科学的根拠に基づいた予防・治療法を確立することが必要です。さらに、これまで明らかにされてなかった日和見感染症の実態を解明することによって得られる研究成果は、保健学・健康科学分野における新しい研究カテゴリーの創造と研究分野の創成につながると考えています。

日和見感染症学と日和見感染症治療・予防対策の確立

本プロジェクトでは、日和見感染症の原因とその病原体、発症状況、患者の免疫状態などを調査、分析し、科学的根拠に基づいた日和見感染症ケア対策を確立することを目指しています。具体的には、以下の作業を計画しています。まず、高齢者、有病者、要介護者が多く存在する医療介護施設や高齢者養護施設、各種医療機関などの協力を得た上で、被験者の対象となる日和見感染症発症について長期間にわたる疫学調査を実施します。目的とする日和見感染症(①褥瘡部位における感染による重症化、②高齢者に多く見られる口腔常在菌叢による肺炎や粘膜疾患、③カテーテルや留置針を固定するために用いるテープが原因となる敗血症、④リンパ浮腫が原因となって発症する蜂窩織炎)を発症した患者を対象に、調査、検査、治療を実施します。次に、日和見感染症の原因となる弱毒性微生物の収集とそれらの分子生物学的・生物学的特徴や感染症発症について、詳細な疫学データをまとめて日和見感染症ライブラリー(ビッグデータ)を作成します。このライブラリーの内容を解析することにより、各種日和見感染症発症に至る原因微生物を明らかにし、その時の宿主である患者の健康状態、免疫学的特徴との関連を明らかにします。その結果に基づいて、各種日和見感染症のメカニズムを解明し、感染症ごとの科学的根拠に基づく日和見感染症の予防・治療方法を検討します。

われわれ保健学・健康科学研究を行う研究者の究極的な目的は、より良い質のCare(ケア・看護・介護)の開発にあります。本プロジェクトは、異分野との研究交流、疫学調査に参加する医療施設などと協力体制を築くことによって保健学・健康科学分野の研究強化を目標にしています。研究成果は、科学的根拠に基づいた日和見感染症のCareに関する最先端医療系研究の構築と実践、臨床現場への応用と啓発、保健学・健康科学分野の最先端教育の提供に貢献することができるでしょう。将来的には、「日和見感染症学」の確立と発展を目指し、国内外に先駆けた、先端保健学・健康科学研究拠点として発展させていきたいと考えています。

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