金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

グローバル時代における若年世代の価値と規範に関する人間科学

プロジェクト代表者 
轟 亮
所属組織・役職等 
人間社会研究域 人間科学系 教授
研究分野 
Sociology(社会学) Psychology(心理学) Philosophy(哲学)
価値, 規範理論, 社会調査, 社会問題, 青年
Value, Normative theory, Social research, Social problem, Youth

グローバル化する現代社会では、価値観の多様化がしばしば非常に深刻な対立や緊張関係を生み出しています。価値観の違いによる対立や争いは、避けられないのでしょうか。普遍的価値規範を共有し、共生社会を構築することは不可能なのでしょうか。我々の研究は、こうした問題意識から出発しています。

一般的に、価値とは、良いこと・悪いこと、好ましいこと・好ましくないことなどの程度を表し、我々のものの見方の根底にあります。規範とは、何をなすべきかという行為や判断の基準に関わることです。個々人の価値と規範は、地域や文化固有の信仰や慣習、政治体制などによって醸成されます。例えば、昨今、捕鯨やイルカ漁についての論争が活発化しています。この論争は、自然や環境、食文化についての価値意識の相違により生み出されていると考えられます。

グローバル化によって地理的・時間的「距離」が縮んでいる今、「われわれ」と異質な価値観を持つ人と出会う機会は増えています。「かれら」と今後どのように共存・共生していくのかは、未来を考える上で大きな課題です。本プロジェクトは、日本を含む多様な社会に住む若者を対象に、かれらの価値規範の違いを明らかにし、その上で、国際的共同・共生社会の構築のためにどのような価値規範が共有可能であるのかを考察します。

 

グローバル化時代に生きる若者を理解し、未来を考える

本プロジェクトが若者を対象にする理由は、若者がこれからの社会を創り、未来を担う存在だからです。若者がいかなる生を求めているかを知り、これからどのような生を求めるべきかという価値規範について議論することは、将来を構想する上で有意義なことです。しかしながら、その過程を誰もが通ってきたにもかかわらず、若者は、私たち「大人」から見ると、いつの時代もその行動や価値観は謎だらけです。そして、若者の意識・行動・価値についての理解は、メディアによる若者論のような類いはあるものの、学術的理解は意外なことに大変不足しているのです。本プロジェクトは、様々な現代的な問題に対する日本の若者の価値意識の現況を理解し、それが同世代の他文化に生きる人々のそれと、どのように共通し、また異なるのかを解明することを目的としています。将来的には、若者の価値についての人間科学的研究の拠点を目指しています。

 

規範理論と経験分析の対話を通して、普遍的価値規範を考える

本プロジェクトは、研究の第1ステップとして、日本を含む、多様な社会に生きる若者の価値と規範に関わる意識・行動を研究の対象に、その現況を国際比較可能な設計をもつ量的社会調査データの分析を通じて解明します。第2ステップでは、この結果を基礎として倫理学的・規範理論的な検討を行い、新しいグローバル社会における、価値・規範に関する議論を社会に提示する、という手続きを踏みます。この過程で大事なのが、異分野連携です。

従来、人間科学の諸学問では、「事実がどうなっているのか」を実証する経験分析の分野と、「現実はどうあるべきか」を分析する規範理論の分野は、別々に発展してきました。前者は、個々の価値観は相対的であるという立場から、社会がどうあるべきかという価値規範についての言及や政策提言への関与を回避してきたのです。しかしながら、近年の人間科学では、現実社会の具体的な問題や危機に対応するために、経験分析を踏まえ実現すべき社会構想を提言することが求められています。

本プロジェクトでは、データ分析を主技法とする心理学と計量社会学、グローバル化時代の問題発見に取り組んできた人文地理学、倫理規範を対象とする哲学と公共社会学による異分野連携を進めます。価値態度・価値選択についての質問項目の設定、その妥当性・信頼性の検討、価値指標の提示などは、各学問分野の知見や方法論を取り入れます。調査票調査によるデータ収集は、計量社会学の研究方法を適用します。分析結果の解釈では、各学問の価値前提に立脚し、議論を進めていくことになるでしょう。

こうした異分野連携による相対主義的立場と普遍主義的立場の議論、言い換えれば経験分析と規範理論との対話が、本プロジェクトの特色なのです。これによって、今日の若者世代に見出される歴史性・地域性・個別性の有り様を、普遍性・公平性・共通性との相互関係において理解することが可能になるでしょう。

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