金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

エネルギー曲面を広域に高精度に俯瞰するシミュレーション法の開発・応用

プロジェクト代表者 
小田 竜樹
所属組織・役職等 
理工研究域 数物科学系・教授
研究分野 
Physics,(物理学),Material Science(物質科学)
自由エネルギー, アルゴリズム, 計算物理, 最適化問題, 高精度計算
Free energy, Algorithm, Computational physics, Optimization, High precision computation

物理学の基本法則は,エネルギー次元をもった物理量によって定式化されます。系を特徴付ける外部変数(またはマクロな状態変数)に対して,着目する自由エネルギーがどのように振る舞うのかが,定式化では重要な問題になります。自然界における現象と構造を解明するためには,自然現象のあらゆる局面において,こうしたエネルギーをより正確,あるいはより高い近似で解明する必要があります。しかし,着目する自然現象や物質構造を特徴づける主要な外部変数や自由エネルギーの種類は,必ずしも明らかになっていません。つまり,まず,どのような外部変数やエネルギーがその現象あるいは構造を特徴づけるのか?を明らかにする必要があるのです。

自由エネルギー曲面の構築と拠点化
自由エネルギー曲面とは,系の構造や外部変数に対するエネルギーを3次元的に,またはそれ以上の多次元空間内に表したものであり,エネルギー曲面の構築とは,簡単に言えば,データを出すために必要な処方箋や実験装置の開発といえます。この「自由エネルギー曲面の構築」は,開発・実装・実証(応用)の3つのプロセスに分けることができます。この分割された3つの要素について,それぞれの研究者が取り組み,それを統合して一つのサイクルとしてまわします。サイクルを繰り返すことで,高精度の自由エネルギー曲面の構築につながります。
自由エネルギー計算は,計算量が多いため,個々の研究者だけで開発・実装・実証の3プロセスを同時に実施することが困難です。したがって,3つを同時並行に進めることのできる拠点形成は,インパクトのある研究成果の創出に繋がります。

自由エネルギーを緯糸としたプロジェクトの推進
本プロジェクトでは自由エネルギー曲面構築を緯糸,研究対象による専門分野(例えば,計算物性科学,計算ナノ科学,計算バイオ科学,計算分子科学,場の量子論,素粒子の現象論,素粒子・宇宙物理学など)を縦糸として,この二つを織り交ぜて研究を進めます。緯糸となる「自由エネルギー」は,実験研究でいうところの測定装置の構築や改良に相当します。しかし,画一的な「自由エネルギー曲面構築」装置を製作して使用することは,縦糸となる研究分野の特性が異なるため,非現実的です。そこで,本プロジェクトでは,上で述べたように,開発・実装・実証(応用)の3つのプロセスに分けながらも,「自由エネルギー曲面構築」装置の技術共有を最大限に図ることに注力します。
本プロジェクトにおける3つのプロセスでは,
•大域的空間で自由エネルギーを評価する方法の開発,空間分割による並列計算技術の開発
•1,2次元空間を想定するが,必要に応じて次元数を増やすことが可能な融通性,柔軟性を持った実装
•必要な記憶容量が小さく計算時間が長くなる特徴がある自由エネルギー計算を,系を多数,束にして一つのまとまった計算(並列計算)として実施する実証
に取り組む計画です。
こうしたアプローチは,似た計算を束にして並列計算を行うアルゴリズムであるため,完成後は並列に伴う管理作業を減らすことが期待でき,将来的には自由エネルギー計算だけではなく,大規模記憶容量—大規模計算量系をはじめとした多種多様な大規模系への適用が可能となります。
計算科学は,計算機の性能向上により,多くの「科学」の学際領域として発展してきました。数学を記述の道具とした「理論」と科学技術を背景とした「実験観測」はそれぞれ歴史的発展から,その独立性は広く認識されています。一方,両者の学際領域から発展した「計算科学」はまだ発展途上であり,私たちは「計算科学」の独立性を高めることで,計算科学の発展のみならず,学術的評価が高まると考えています。これはつまり,理論物理に基づいて非経験的な前提条件から演繹して結論を導き出せるようになることです。本プロジェクトは,自由エネルギー曲面の構築を通じた「計算科学」の学術的発展と新たな学問領域の創成をも視野に入れた画期的な取り組みでもあるのです。

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