金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

血管の生理的調節機構と分子病態の解明をめざすポスト・ゲノム医学研究

プロジェクト代表者 
多久和 陽
所属組織・役職等 
医薬保健研究域 医学系 教授
研究分野 
Cardiac & Cardiovascular Systems(心臓、循環器系)、Biochemistry & Molecular Biology(生化学、分子生物学)、Physiology(生理学)
生体調節、 ポスト・ゲノム、血管、病態
Biological regulation, Post-genome research, Blood vessel, Clinical condition

動脈硬化や高血圧などの血管病は,虚血性心疾患や脳卒中を引き起こし,我が国の死亡原因の約1/3にもなる重要疾患です。動脈硬化や高血圧などは,複数の遺伝要因や食生活・喫煙のような生活習慣などの環境要因が複雑に絡み合い引き起こされます。肥満や脂質・糖の代謝異常により,生体機能調節ネットワークの機能障害が生じ,血管内皮の健常性を維持するメカニズムが破綻し,さらに慢性炎症が起き,発症に至ると考えられています。

生体機能調節ネットワークには,種々のタンパク質のほかに,多種類の脂質や複合糖質が関与しています。本研究では,機能性脂質・修飾糖質の役割に焦点を当て,血管の恒常性維持メカニズムを解明します。

環境要因の影響は,エピゲノム(ゲノム上の様々な修飾)の変化として,その情報が記録される場合があります。機能性脂質・修飾糖質は,このエピゲノム制御にも関与しうると考えられており,エピゲノム制御機構と血管の恒常性維持メカニズムの関係についても研究を進めます。

 

心臓や血管の疾患に関わる脂質や糖

血管は血管径を調節して臓器への適切な血流を保証して,ホルモン,栄養素を組織に送ります。こうした血管機能は,血管内腔を覆う内皮とその下層の平滑筋が主に担っています。正常な血管機能が損なわれると,動脈硬化,心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患が引き起こされます。例えば動脈硬化は血管壁の炎症によるものです。炎症の抑制と血管内皮の防御機能の活性化が,治療薬開発の鍵となります。

スフィンゴ脂質や3’-ホスホイノシチドといった多機能脂質や還元糖およびその代謝中間体である修飾糖質の制御異常は,血管内皮の健常性破綻や炎症に影響します。そこで我々は,これらの多機能脂質や還元糖および修飾糖質に着目し,下記のアプローチにより研究を推進します。

 

4つのアプローチによる血管の生理的調節メカニズムおよび病態の解明

  • 血管病の病態における役割解明

動脈硬化には,脂質代謝異常に加え,血管壁の慢性炎症と血管内皮の防御機能低下が関わっています。我々は,機能性脂質であるスフィンゴ脂質および修飾糖質などが血管内皮や炎症に関わる白血球に作用することに着目し,血管病とこれらの関係を解明していきます。

  • 血管内皮ホメオスターシス(恒常性)維持の新機構解明

スフィンゴ脂質や修飾糖質に関連する遺伝子の欠損マウスや過剰発現マウスを作成し,それらの発達,寿命,生殖能力,血管の状態などを分析します。また,血管細胞や白血球のエピゲノムの状態について分析します。これらの研究により,機能性脂質と修飾糖質の動物個体レベルでの恒常性維持における役割を解明します。

  • 内皮下白血球活性制御の新機構解明

内皮,血管平滑筋,白血球の一種である単球において,スフィンゴ脂質レベルが変化することによって,細胞膜を介したシグナル伝達や細胞の自食作用(異常なタンパク質などの異物の排除機能)が変化する可能性があります。また,スフィンゴ脂質と炎症に関連する細胞との関連を調べることにより,内皮下白血球活性化の制御メカニズムを解明します。

  •  血管内皮細胞のエピゲノム発現制御機構の解明

細胞内で産生された修飾糖質は,細胞の生理的な反応のみならず,エピゲノムの調節に影響を与える可能性が考えられます。そしてエピゲノムの変化は,遺伝子の発現調節に関わります。我々は,血管内皮細胞や白血球のエピゲノムに対する機能性脂質や修飾糖質の役割を解明することにより,血管の生理的調節に関わる遺伝子群の発現制御メカニズムを解明します。

以上の解析を通じて,血管病における機能性脂質・修飾糖質による恒常性維持メカニズムの破綻と疾病の関係,治療法の開発および再生医学への応用を目指します。

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