金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

先端計測化学により「環境と健康」を解明・改善する異分野融合教育研究拠点の創成 -グリーンメディシナルイノベーションの推進-

プロジェクト代表者 
長谷川 浩
所属組織・役職等 
理工研究域 物質化学系・教授
研究分野 
Ecology(生態学) Environmental Sciences(環境科学)

現在,アジア・アフリカ地域は急速な経済成長の途上にあります。これは,当該各国にとって大きなチャンスであるとともに,大きな危機でもあります。かつて我が国が経験したように,急激な産業構造の変化と経済発展は,その国の環境と,そこに住まう人びとの健康に,大きな影響を及ぼす可能性があるからです。私たちは,これまでに培った知見と技術を集結し,この問題に取り組もうとしています。

先端計測化学によって,「環境と健康」を解明し,改善する
キーワードとなるのは,先端計測化学です。文字通り,最先端の研究と技術開発の実績を生かして,環境物質や生体関連物質の性質や挙動を明らかにするもので,環境学分野であれば,例えば環境汚染物質の同定と移動経路計測等,また医薬・生命科学分野であれば,化学物質や微生物の挙動調査や健康への影響解析等のように,「環境と健康」を分析・解析します。本プロジェクトでは,環境工学から創薬化学まで,多様な分野の研究者が参画して多角的に研究を進めていきます。
さらに「環境と健康」を分析・解析して得られた成果に基づき,「環境と健康」を改善する技術を,産業界と連携して開発することも目指しています。例えば環境改善やリサイクル,省エネルギー技術等の開発に向けて,水処理工学や機械工学を専門とする研究者も参加する計画です。
こうした取組により,アジア・アフリカ地域の国々が直面している,或いは今後相対することが予想される,環境問題や健康・医療問題に対する解決法を見いだすのが,本研究プロジェクトの狙いです。
私たちは,次世代の成長産業として,「環境と健康」に関わる先端技術を中心とした新しい産業戦略「グリーン・メディシナルイノベーション」を提唱しています。環境学と理工学,医薬生命科学それぞれの学問の垣根を取り払い,連携し,補完し合うことで,国際貢献につながる新たな産業を生みだす試みを進めているのです。

「真の豊かさ」を追求し,持続可能な環境モデルを創出
当面取り組む課題は,福島県放射性物質汚染問題と,バングラデシュ沿岸域重金属汚染問題です。いずれも,日本が蓄積してきた研究成果と開発技術を生かして,国際的責任を果たすことが求められている重要な課題です。これらに取り組むなかで,汚染物質の同定と分布観測・解析から,当該汚染物質の生理作用解析や健康影響に関する疫学調査,さらにその汚染物質の除去技術開発と実用化まで,一連の流れを有機的に結びつけ,全体を俯瞰し緩やかにつながりつつ,個々の先端的研究を進める体制を構築する計画です。具体的には,先端計測化学,総合環境工学,環境医科学の3つの部門が連携していきます。
先端計測化学部門は,物理化学,分析化学,放射化学等の多様な視点から,分子・原子レベルの局所構造や状態解析,無機・有機物質(放射性同位体を含む)の化学種分析,キラル分離分析,超高感度分析等の実現を目指します。
総合環境工学部門は,汚染物質の分布状況解析,分離工学技術による環境汚染物質除去・無害化手法開発,廃棄物をエネルギー物質に変換する資源化技術や環境汚染を修復するバイオレメディエーション技術を開発します。
また,環境医科学部門は,汚染物質による細胞のがん化や細菌病原性の亢進を数値化し毒性や環境改善を評価,上述疾患リスクを減弱させる生物活性探索,リード化合物や健康促進成分同定,さらに治療薬や診断薬,健康食品としての利用法の開発を進めます。
これらの部門に加え,将来的には人間社会環境学部門を設置し,環境社会学,環境経済学,文化人類学等の観点から,環境問題に対する実証的・理論的研究を進めます。
本プログラムは,科学技術や医薬生命科学の進歩から単純に発想される「物質的な豊かさ」のみを目指すものではありません。社会学,哲学,法学,文化人類学などの人文・社会学領域との文理融合も視野に入れ,人類が共有すべき「真の豊かさ」について,価値観や社会制度の点からも追究し,持続可能な環境モデルを創出する総合的生存基盤研究を行っていきます。

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