金沢大学 超然プロジェクト×先魁プロジェクト×自己超克プロジェクト

区分2

キラルアミノ酸と腎を介した生体ネットワークの解明と世界的研究拠点の形成

プロジェクト代表者 
岩田 恭宜
所属組織・役職等 
附属病院 感染制御部 特任准教授
研究分野 
腎臓学 感染症学
キラルアミノ酸、腎臓、微生物叢
Chiral Amino Acid, Kidney, Microbiota

■ キラルアミノ酸 ■
増加する透析患者の抑制、背景となる腎臓病の重症化予防と克服は医学的、社会的、医療経済上も非常に大きな問題です。本邦において、末期腎不全の予備軍であり約1,300万人も存在するとされる慢性腎臓病と、慢性腎不全の最大の要因である糖尿病性腎症、超高齢社会で増加している急性腎障害などの分子病態解明とそれに立脚した新規診断法・治療法の開発は喫緊の課題です。また、慢性腎臓病は、腎機能障害の進行のみならず、心、脳、肺など各臓器の障害を進行させるリスクであることが判明しています。一方で、この腎を中心とした臓器間ネットワークの機序は明らかではありませんでした。我々は、腸内細菌叢由来の代謝産物であるキラルアミノ酸、ことにD-アミノ酸に着目して、生体ネットワークの解明を試みています。アミノ酸はL体とその光学異性体であるD体が存在しますが、これまでは分析技術の問題から、主にL-アミノ酸についての知見が主でした。一方、D-アミノ酸は、腸内細菌叢など、種々の細菌から産生されますが、生体内分布や、その機能的意義に関しては不明でした。近年、高精度にキラルアミノ酸を網羅解析しうる革新的技術が開発されました。我々は、この測定技術を基にキラルアミノ酸の腎疾患における意義を検討してきました。その結果、急性腎障害時(AKI)に腸内細菌叢のdysbiosisとともに、D-アミノ酸が体内に循環し、腎保護作用を持つことを明らかにしました。さらにヒトAKI患者では、疾患発症と共に血中D-アミノ酸濃度が上昇し、その濃度は腎機能と相関することより、新たな診断法としての可能性も示されました(Nakade Y, Iwata Y, et al. JCI Insight 2018)。

 

本プロジェクトでは、キラルアミノ酸、特にD-アミノ酸に着目し、細胞・個体レベルでの産生・代謝経路の解明と生命維持における意義、腎の未病と疾患発症時での役割、腎疾患における新規診断法・治療薬としての可能性、さらに腎脳連関など、生体ネットワークに果たす意義などについて検討を進めます。すなわち、腎疾患克服に向けて、キラルアミノ酸を基にした生理的状態・疾病時・糖尿病など種々の生体条件における代謝マップの作成、腎疾患と関連する認知症など全身病態の病態形成、つまり生体ネットワークの統合的理解を目指します。この目的のために、①我々が世界に先駆けて見出した、腎臓病に関わる新規細胞群とキラルアミノ酸の相互連関を明らかにします。②新規トランスポーターの同定と、細胞内取り込みを革新的原子間顕微鏡により可視化します。③国際的コホートの検体を用いてキラルアミノ酸メタボロミクスを行います。④40年以上の長期臨床データと紐づけ可能な生体サンプルでのキラルアミノ酸メタボロミクスを行い、正常、腎疾患、糖尿病状態でのキラルアミノ酸代謝マップを作成します。⑤種々の腎疾患モデルマウスを用いて、その治療薬としての可能性を検討します。⑥脳腫瘍摘出標本ならびに認知症機能テストをもとに、腎機能と認知症と関連を、キラルアミノ酸を介した検討を行います。脳組織のキラルアミノ酸メタボロミクスを行い、腸内細菌dysbiosis、体内アミノ酸組成の攪乱などとの関与を検討し、腎・脳・共生微生物叢の生体ネットワークの機序に迫ります。これらのプロジェクトより得られる知見から、生理的状態並びに腎臓病におけるキラルアミノ酸の代謝マップ作成と、それに基づく腎・脳・共生微生物叢などの生体ネットワークを解明したいと考えています。さらに、その研究を発展させ、新規診断法・治療法の確立、生体ネットワークの新たな機序の解明を試みます

(挿入図)chozen-iwata